東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)169号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第四号証、第五号証及び第八号証(本願発明の明細書)によれば、本願発明の明細書の特許請求の範囲の記載は、請求の原因二のとおりであることが認められ、これによれば、本願発明は、「密閉された空間内において、冷凍食品の種類とその条件に対応して選定した誘熱伝導加熱手段」を用いることを一つの要件とするものである。
しかして、右の「密閉された空間内において、冷凍食品の種類とその条件に対応して選定した誘熱伝導加熱手段」の意義について考察するに、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「この発明に直接使用する装置に関して図面について説明する」(前掲甲第四号証第六頁第一一行、第一二行)としたうえ、「給水管(18)の途中の電磁弁(19)を検出器(16)(17)にて制御し貯水部(12)に適当に水が貯えられている状態と導管(13)と熱交換器(14)の下部のみに水が貯えられている状態の二段に切換えられるようにし、且つ本体(1)内の水を完全に排出する排水弁(20)を導管(13)の最低部に設けてある」(同第七頁第一〇行ないし第一五行)、「この排水弁(20)を操作して本体(1)及び導管(13)等の水を排除したのち、ヒータ(15)を働かせて乾熱風を作り、この乾熱風をフアン(23)で本体(1)内に供給できるように構成されている」(同第七頁第一五行ないし第一九行)、「電磁ポンプ(38)を介して吸上げられた水を電磁弁(39)を介して、ノズル(37)より噴霧させこの噴霧をヒータ(15)によつて加熱水蒸気となし、フアン(23)を介してその加熱水蒸気を本体(1)に充満させる」(同第一〇頁第六行ないし第一〇行)、「下部の検出器(17)を作動させて、この位置まで水位を下げ、ヒータ(15)を発熱させると湿熱風が発生し、この湿熱風が本体(1)内に充満して湿熱風による食品の加熱が行われ」(同第一〇頁第一六行ないし第一九行)、「検出器(16)を作動させて、貯水部(12)内に一定量の水が常に存在するようにし、ヒータ(15)に電流を流して水を加熱すると、貯水部(12)内の水はサーモスタツト(25)で設定した温度となるから、最下位の食品載せ皿(8)上の食品は湯の中に浸漬され、解凍処理が行われ」(同第一二頁第一六行ないし第一三頁第二行)と記載されており、これらの記載と本願発明の図面中の第1図及び第2図(成立について争いのない甲第三号証の三の第1図及び第2図。別紙図面参照)の記載を併せ参酌すると、本願発明にいう「密閉された空間内において、冷凍食品の種類とその条件に対応して選定した誘熱伝導加熱手段」とは、密閉された空間内において、そこに備えられた乾熱風、湿熱風、加熱水蒸気等の発生装置、湯浸装置等の複数種の誘熱伝導加熱手段のうちから、冷凍食品の種類とその条件に対応して、操作手段を操作することにより選定した誘熱伝導加熱手段をいうものと解するのが相当である。
これに対し、成立について争いのない甲第二号証によれば、引用例には、閉鎖された操作室において、高周波エネルギー及び熱風により生じる熱エネルギーの両者を併用して冷凍物を解凍することが示され、そこで用いられている誘熱伝導加熱手段としては熱風のみであることが認められる。
そうすると、引用例のものにおいては、密閉された空間内において、複数種の誘熱伝導加熱手段のうちから、加熱手段を冷凍食品の種類とその条件に対応して選定するということは全く示されていないというほかはなく、引用例のものはこの点において本願発明と相違するといわなければならない。
審決は、一次解凍を誘熱伝導加熱手段のみで行ない、二次解凍を誘熱伝導加熱手段と誘電内部加熱手段の両者を併用して行なう本願発明は、解凍の初期から誘熱伝導加熱手段と誘導内部加熱手段の両者を併用して行なう引用例の記載から、当業者が容易に行ない得たと判断するのみで、本願発明と引用例との前認定のような差異があるにもかかわらず、なお本願発明は引用例の記載から当業者が容易に発明し得たものであるかどうかについては考察もせず、且つ言及もしていないところ、この判断は必要不可欠のものというべきである。
被告は、本願発明における誘熱伝導加熱手段は、複数種の手段を使用するものであることを必須とするものではないと主張するが、複数種の加熱手段を使用するものであることは、明細書の特許請求の範囲に明記してあるから、被告のこの主張は全く理由がない。
三 よつて、その余の争点についての判断を省略し、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
密閉された空間内において、冷凍食品の種類とその条件に対応して選定した誘熱伝導加熱手段でもつて該食品を予じめ加熱処理して、一次解凍したのち、ついで前記誘熱伝導加熱手段と、誘電内部加熱手段との協働的組合せ、併用によつて該食品を加熱処理して二次解凍又は解凍再加熱調理することを特徴とする複合加熱による食品の解凍・再加熱調理方法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面
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